感想文

本とか映画とかゲームとか。ネタバレはしないようにしています。

チグリスとユーフラテス(上・下)

チグリスとユーフラテス〈上〉
新井 素子

おすすめ平均
まず文体で
生きることの意味
題名に魅かれて
繰り返し読みました。

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チグリスとユーフラテス〈下〉
新井 素子



『生きてきたことには意味がなかったし、これからの人生にも意味がない』、ということが判らされてしまったらどうしますか?
物語の主人公たちは、長い長い眠りから目覚めた後、この現実を目の前に突きつけられていくのです。

新井素子の長編。
この人の本は高校生の時よく読んでいたんだけど、語り口がすごく独特でかなり脳裏に残るの。
続けて読むとしつこく感じてしまうのよね。
今回はタイトルに惹かれたのと、『長編だとどうなの?』って気持ちから、久しぶりに手に取りました。

独特な口調は相変わらずだけど、ストーリーの内容は新鮮で面白い!
展開も興味深くて、どんどん読んじゃいました。

ジャンルはSF。
とはいっても小難しい理屈はナシ!スムーズに読めると思います。
どちらかといったら、心理描写が多いかも。

内容をひとことでいうと、「地球からの移民たちで作られた”ナイン”という星の栄枯盛衰」という感じ。
SFというと、宇宙に着くまでの苦労だとか技術的な内容だとか、行ったら未確認生物がいたりだとか、そんなイメージがないですか?
でもこれは違うのです。
SFだけどSFじゃないというか。

上巻では、ナインという星がいかに栄え衰えてきたかということが主人公の女性たちの目を通して描かれていて、下巻では、ナインの女神『レイディ・アカリ』と最後の子供『ルナ』のやり取りが続きます。
途中には『レイディ・アカリ』が移民してきたイキサツや女神になるまでの話なんかもちりばめられていて、後半とはいえ飽きずに読めますよー。
あ、でも少し、描写の繰り返しが気になる部分もあるかも?

読んだ後には、主人公たちの生き方を思い返してみたり
アカリの気持ちを思ってみたり、何となく考えさせられるストーリーでした。
でもあからさまに問題提起されてて重いというわけではなくて、根底のテーマなのかな?って感じです。

2002/01/01 Tue | 本 > 日本の小説・エッセイ > あ行 > 新井素子

東京セブンローズ(上・下)

東京セブンローズ〈上〉
井上 ひさし

おすすめ平均
本当に大切なもの
おもしろい!かつ勉強になります
日本語の素晴らしさを再認識

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東京セブンローズ〈下〉
井上 ひさし



第2次世界大戦の頃のお話。
昭和20年の4月からスタートします。

日記調で物語が進むんだけど、漢字が当時の字体で書かれているのでけっこう難しい。
読むのにちょっと苦労するかも。

でもね、たとえば、「臺」という漢字だけ出てきたらなんじゃこりゃぁって感じだけど、文章の流れで「臺所」「番臺」と出てくれば今でいう「台」だなって理解できる。
想像力を駆使すれば意外とスムーズに読めちゃいます。

団扇屋の主人(といっても戦時中だから休業中)の、日々のできごとや感じたことが詳細に綴られてるんだ。
これが面白い。

戦争のことって、歴史の教科書で習った程度しか知らなかったんだ。
『日本は負けた』とか『原爆が落ちた』とか『たくさんの人が亡くなった』とか、そういう情報は知ってる。
でも当時の人々がどんな生活をしていたのかって詳しく知らない。

この本を読むと、それがわかるから面白い。
東京下町に住む庶民が戦争中にどんな生活をしてどんなことを思っていたのか、手にとるように想像できる。

娘が結婚したり、闇でイイモノを手に入れたり、団扇を作れないから運送業を始めたり。
町会長に嫌味を言われたり、こっそりすき焼きしたり、お風呂に入るのにも苦労したり、、、、。

たしかに、毎日空襲警報が鳴ったりしておそろしい時代だったと思うし、この一家だって警報の度に怖い思いをしてる。
でも、そういうことばっかりじゃないんだよね。
人々は、日によってはトイレの汲み取りがしてもらえないことに心を悩ませたりもしてるんだ。
当然といえば当然なんだけど、意外だった。

それからやっぱり皇室に対しての敬意はすごくって、日記の中でも特別丁寧な言葉で表されてる。
そういう時代だったんだなぁって、改めて思ったよ。

『戦争の記録』といっても決して重々しい感じではないし、『物語』として楽しめる内容。
大きな事件も起こるけど、何よりも日常の描写がすごいって思ったよ。

日記と聞くと躊躇しちゃうかもしれないけど、ぜんぜん単調じゃなくて毎日何かが起こってる。
小さいことも含めてね。
かと言って”出来事の羅列”だけじゃない。

後半(敗戦後)は、日本語のローマ字化計画たるものが持ち上がるの。
主人公(日本語大好き)は、この計画に猛反対。中止させようと戦うんだ。
その合間には、いかにも父親らしいことで悩んだりもするんだけど。

この本は、オススメですよ〜。

ちなみに、この小説のタイトルである「東京セブンローズ」は
下巻も半ばになってようやく意味がわかります。

2002/01/01 Tue | 本 > 日本の小説・エッセイ > あ行 > 井上ひさし

オルファクトグラム

オルファクトグラム
井上 夢人

おすすめ平均
暖かく、優しく、ちょっと寂しい「匂い」

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結婚した姉の家に遊びに行って事件に巻き込まれた主人公、
気がついたら入院してた。
そして、退院した主人公の鼻に異変が!

この主人公、ものすご〜く鼻がよくなっちゃうんだ。
”犬”並み、もしくはそれ以上らしい。
ニオイの感じ方も、人とは違ってしまうの。
目で見るようにニオイがわかるんだ。

最初はとまどっていた主人公だけど、”ニオイ”というものに興味を持ち出したの。
その結果、ますます嗅覚も鍛えられてその実力を発揮する。
できあがった料理のニオイだけを頼りに材料を全部あてたり、調味料の量や火の入れ具合までわかっちゃったりね。

で、これを利用して事件の犯人を追うことを思いつくの。
親友が”シュウタンボウ”というものを発明(?)してくれて、それを使って犯人の行動を分析して追っていくんだ。
ここで立ち止まったとか、誰かと会った、とかね。

・・・何か、こう書くと大して面白くなさそうだな。
あーん、とっても面白いのにー。
久しぶりに、『読むスピードよりも先の展開が気になる方が勝って読みながらウズウズする感覚』を味わったもん。

後半はハラハラしながら読めるし、最後は感動もあり。
うん。おもしろかった!

とはいっても手放しでサイコーというわけではないんだ。
ひとつ、事件の特徴で気になることがあったんだけど、そのことについてはほとんど触れずに終わっちゃったの。
読み終わってしばらくしてから「ん?あれは何だったの?」って思った。
その1点だけ残念だったけど、トータルではかなりの高得点。
オススメよ。

2002/01/01 Tue | 本 > 日本の小説・エッセイ > あ行 > 井上夢人

月の裏側

月の裏側
恩田 陸

おすすめ平均
「個性」と「マジョリティ」
ひたひたと恐い。。
これは怖かった…
怖いのがお好き・・・ですか?
とにかく怖い!読み終わっても怖い!

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久しぶりの恩田陸。
これは、ひたひたと怖いストーリー。

水に囲まれた街で起こった不思議な出来事。
盗まれた人々。
戻ってきた人々。
気付いた人々。
彼は本物?彼女は本物?
自分は本当に自分?

・・・って感じの内容。

裏表紙に書いてあった文章を読む限りは期待してなかったんだ。
だって、「まさか宇宙人による誘拐か、新興宗教による洗脳か、それとも?」なんて書いてあるんだもん。

でも面白かった。最初は情景の描写が多いんだけど、ストーリーが展開するにつれて勢いづくという感じ。
出て来る人といい、話の展開の方向といい、こういうの好き。

恩田陸の表現の仕方って、難しくないんだけど新鮮な感じを受けるから好きなの。
例えば主人公が子供の頃のことを思い出している場面で、『雨の音が落下の音なのか着地の音なのかひどく気になったことがあって』って。
主人公はちょっと変わった感覚を持っているという設定だから子供の頃もそうだったんだなっていうのが伝わるんだけど、だからってこういう風に書けるのってこういうことが思いつくのって、何だかスゴーイって思っちゃった。

2002/01/01 Tue | 本 > 日本の小説・エッセイ > あ行 > 恩田陸

三月は深き紅の淵を

三月は深き紅の淵を
恩田 陸

おすすめ平均
未完成の地図
一夜の楽しみ
なんともいえない魅力
そして何度も読み返すのだ
不思議に満ちている

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「三月は深き紅の淵を」という本があって。
それは一般には発売されていない本で、誰が書いたかすらも謎。
持っている人は、1人に一晩だけ貸すことが許されているの。
ほんとに一晩だけ。例え読み終わらなくても。
それ故にこの本をきちんと読んだ人はほとんどいなくて、内容に関してもいろんな議論を呼んでいる。
マニアもいて、要約が出回っていたりもするらしい。
この本は四部作で、それぞれに謎があるという設定。


そして実際の「三月は深き紅の淵を」(恩田陸のね)も、四部作仕立てになっていて、それぞれが違うお話のようでいて、繋がっているようでもあって。

何というか、不思議な気持ちになった。
けしてハラハラしたりドキドキしたりする内容ではないんだけど、淡々と面白いというか、いつまででも読んでいたい感じ。
読み返してみたい気持ちにもなる。
「面白い」本というより「好きな」本と言った方がいいかも。

2002/01/01 Tue | 本 > 日本の小説・エッセイ > あ行 > 恩田陸

西の魔女が死んだ

西の魔女が死んだ
梨木 香歩

おすすめ平均
やさしさに包まれる
私の心に一生残る本です
愛・自然
心の避難所
何かを教えてもらった

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とっても素敵な本を読んだよ。

主人公は”まい”という中学生の女の子。
学校に行きたくなくなってしまっているの。
ママの勧めで、まいは大好きなおばあちゃん(西の魔女)と1ヶ月間、生活を共にすることになる。
その1ヶ月間の様子が描かれてるんだけど、まいはそこでおばあちゃんから魔女修行の手ほどきを受ける。
魔女といっても魔術や呪術ではなくって、自分のことは自分でやるということや、規則正しい生活をするということ、自分の幸せは自分で決めるといったことが魔女にとってすごく大切だってことを教わるの。

おばあちゃんとジャムを手作りしたりベッドメイキングを教わったり、近くの森を散歩したり、花の名前を知ったり。
読んでいると、初夏の爽やかな感じとか「まい」がおばあちゃんのことを大好きな気持ちが伝わってくるんだ。

そして、、、。
タイトル通りおばあちゃんは死んでしまうし、帯に書いてある通り『最後の3行は涙が止まらない』。
だけど、死んでしまったことが悲しくて泣いたわけではなかったんだ。
感動というか、胸にこみあげるというか。
ネタバレしないように書くのって難しいけど、切なさと暖かさと優しさに胸がいっぱいで、涙が流れたという感じです。

小説を読んでグシュグシュと泣いたのはかなり久しぶり。
でも読後感はすごく良いです。
読んでみて!!

2002/01/01 Tue | 本 > 日本の小説・エッセイ > な行 > 梨木香歩

からくりからくさ

からくりからくさ
梨木 香歩

おすすめ平均
今までにない魅力
私の宝モノの本です
人生最高の1冊だと思う。
からく「りか」らくさ?
癒し?

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「西の魔女が死んだ」がとてもよかったので、続けて読んだよ。

主人公の蓉子が、亡くなったおばあちゃんの古ーい日本家屋で、同年代の女性3人と共同生活を始めるの。
その生活には、蓉子が小さい頃から一緒にいる「りかさん」というお人形も一緒。
しかも、今は眠っているけど「りかさん」は、話をするらしい。
最初はとまどった同居人たちだったけど、次第に「りかさん」がいることが自然なことになってくるんだ。
蓉子は食物や草木で糸を染めて過ごし、紀久は機を織り、与希子はキリムという織物に挑戦、マーガレットは鍼灸の勉強を続けている。
そんな4人の日常には当然「染め」のことや「織物」の話が多く出てくる。
織物にまつわる異国の話なんかも入ってくるから、少し難しく感じる部分もあったよ。

でもね、これは「西の魔女が死んだ」でも思ったことなんだけれど、その日々の生活の様子がとても気持ちよさそうなの。
網戸のない家で虫も多いけどそのぶん自然な風が吹き込んできたり、紀久の機の規則的な音を聞きながら読書をしたり、庭の野草を調理して食卓で味わったり。

かといって、のどかな生活だけを描いているだけではないんだ。
問題も起こるし、悩んだりもする。
「りかさん」を通して4人には意外なつながりがあることが判明していくし、4人それぞれの「流れ」のようなものにも変化が起こってくる。
後半には事件も起こるしね。

途中で出てくる能面の話は少し複雑で「のどか」とは言えないエピソードだし、「りかさん」というのは人形だけど話をする設定ということもあって、”誰にでもオススメ”って感じの本ではないかなぁ。
私の彼なんかは読みたがらない気がする。

ただ、私はけっこう好きなんだ、この本。
手作りのものにも惹かれるし、毎日の生活の様子も何だか好きなの。
時間がゆっくり流れてるような、せかせかしてない感じが好みなのかな。
それとも、この作者の文体が私に合ってるのかな?
恩田陸サンと並んで、いま気になっている筆者の一人です。

2002/01/01 Tue | 本 > 日本の小説・エッセイ > な行 > 梨木香歩

水の中のふたつの月

水の中のふたつの月
乃南 アサ

おすすめ平均
正にミステリーと呼ぶにふさわしい作品
オカルト好きにはちょっとおすすめ?
小学生時代の共通の秘密とは…
特異な性癖の理由

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亜理子(OL)はある日、幼なじみから久しぶりに電話をもらう。
12歳に転校してから連絡も取っていない相手。
今ごろ何だろうと不思議に思いつつも、仲良し3人組で再会を果たすんだ。

3人には当時、固く約束していたことがあるの。
その「誓い」が大きなポイントになってる。
現在と、当時の様子を行き来しながら話は進むんだ。

3人それぞれが持っている「癖」にも意味があることや、「乾くん」という男の子がカギを握っているってことが徐々にわかってくる。
恋人の「哲士」も段々ストーリーに深くからんでくるよ。

そして、怖ーいラスト。
当時の話も怖いけど、現在の話の展開も怖かったな。
で、エピローグも怖い。
どっちかと言えば私には苦手な種類の「怖さ」なんだけど、
けっこう面白い本なのではないかと思うよ。

すごく余談なんだけど、何年も連絡が途絶えていたような相手から、突然連絡がきたらどんな気持ちがしますか?
私は22歳頃、中学1年生の時のクラスメイトから電話をもらったことがあって、「久しぶり〜?元気ィ〜?」なんて懐かしそうに言うもんだから、てっきりクラス会でもあるのかなーって思ったのよ。
ちょっと嬉しかったのに、選挙があるから某K党をヨロシクという内容でしたわ。がくり。

2002/01/01 Tue | 本 > 日本の小説・エッセイ > な行 > 乃南アサ

TRICK

TRICK―トリックthe novel
蒔田 光治 林 誠人

おすすめ平均
ファン必見!!(?)
ファンにはたまらん
テレビを見てからね〜
すごくおもしろい!
コレクターズアイテムとして割り切る?

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ちょっと前にドラマでやって、密かなブームになっていたのよね。
仲間由紀恵と阿部寛が主演のやつ。
ずっと見てみたかったんだけど、小説化したものが売っていたから先に読んでみたよ。

結局、TVでは一度も見たことがないの。
NG大賞だったかそんな番組で、主役の2人が会話しているのをチラッと見たくらい。
その程度の記憶でも、2人のセリフを読んでいる時は仲間由紀恵と阿部寛の掛け合いが鮮明に浮かんできたよ。
そういう風にイメージしながら読んだから、けっこう面白く読めたんだけど。

だけど・・・。
これが何の先入観もなく読んだ小説だったら、果たして楽しめただろうか??
キャラがたちすぎて、セリフ回しがくどく感じるかもしれないなぁ。

2002/01/01 Tue | 本 > 日本の小説・エッセイ > ま行 > 蒔田光治 林誠人

へその緒スープ

へその緒スープ
群 ようこ

おすすめ平均
怖っ
群ねえさんお得意の、人間関係におけるイヤなこと・てんこ盛り短編集。
群さんにしては珍しい一冊

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帰りに読む本が欲しくて何気なく買った1冊。
短編集です。

主人公をイライラさせるような登場人物が描かれているんだけど、それがいかにもありそうな内容なので読んでいるこっちまでイライラしてきます。
『こんな目にあったらイヤーー!』と思いながらもついつい読み進めてしまいます。

ちょっとホラーっぽい作品もあるので、読んだ後は、怖いやらイライラするやら。

テンポもいいし内容も面白いので「オススメ!」と言いたいところですが、読後感はけっこうモヤモヤするので”微妙”です(笑)。

2002/01/01 Tue | 本 > 日本の小説・エッセイ > ま行 > 群よう子